MS法人との役職員兼任について
医療法人等とMS法人との役職員の兼任については、医療法人等の非営利性に絡む問題であり、「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について」の通知が参考になります。
ただし、曖昧な記述のある通知のため、具体的な解釈や運用は各自治体により差異があります。
通知を簡単に表にすると下記の通りです。(第一 開設許可の審査に当たっての確認事項1(2)④参照)
法人開設 |
MS法人の役職員 |
開設者である医療法人等の役員 |
×(原則) |
医療法人の理事の過半数を超えず 物品の購入もしくは賃貸または役務の提供 理事長が含まれていない MS法人の規模が小さく役職員の変更が困難 契約内容が妥当 かつ、非営利性問題なし |
〇 |
医療法人の理事の過半数を超えず 土地・建物の賃借 MS法人の規模が小さく役職員の変更が困難 契約内容が妥当 かつ、非営利性問題なし |
〇 |
取引額が少額 | 〇 |
医療法人は利益相反にあたるような行為は、理事会の承認があれば、禁止されてはいません。(医療法46条の6の4、一般社団等法人法84条)
だだし、開設に際しては、医療法7条6項で営利を目的とするものは許可を与えないことができる旨の規定があり、非営利性が問題になります。
そのため、上記表に該当する場合は、例外的に取り扱うことができるとされています。
なお、表中に「取引額が少額」とありますが、ここでいう取引はどのような取引を指すのか、少額とはいくらを想定しているのかは不明であり、各自治体が判断することになろうかと思われます。
さらに、この取引は、少額であれば非営利性に触れないという意味なのか、非営利性に影響がない少額の取引を意味するのか分かりにくい部分があります。(おそらく後者)
さらに、当該通知では、下記表のように個人開設の場合のMS法人との兼任についても定めています。(第一 開設許可の審査に当たっての確認事項1(2)③参照)
個人開設 | MS法人の役職員 |
開設者である個人及び 当該医療機関の管理者 |
×(原則) |
土地・建物の賃借で MS法人の規模が小さいことにより役職員の変更が困難 契約内容が妥当 かつ、非営利性問題なし |
〇 |
取引額が少額 | 〇 |
ここでいう開設者である個人とは、医師(歯科医師)である個人を指していますが(第一 開設許可の審査に当たっての確認事項1(1)参照)、診療所を開設する医師(歯科医師)は入らないと考えられます。
この通知は、表書きで開設許可の規定である医療法7条だけでなく開設届の規定である医療法8条も射程に入れているようですが、上記は、開設許可の審査に当たっての確認事項であり、この通知そのものは、開設届についての確認事項は定めていません。
そもそも、この通知が発出されたのは、「開設者が実質的に病院の開設・経営の責任主体でなくなっていたにもかかわらず、病院の廃止届を提出せず、当該病院が開設者以外の者により開設・経営されていたという事例が明らかになった」ことが原因となっています。
このような事例は、病院に限らず医療機関全体を通して起こりうることでしょう。
ただ、上記のような事例をもってして医療機関全般に非営利性を求めることは、医療法の趣旨等に照らして妥当ともいえるかもしれませんが、条文上の区別からして、医師が開設する診療所にも非営利性を求めるには無理があるように思います。
この通知のどさくさに紛れて8条の開設時にも非営利性を求めてしまおうといった意図があったのか、あるいは、そもそも医療法の根底に流れるのは非営利性であり条文上の区別など些末である、といった趣旨なのかどうか。
余談ですが、こちらの規定は、法人開設に規定のあった「物品の購入・賃貸・役務の提供」について規定がありません。
これは、個人開設の病院が自己契約のような形になると、MS法人には承認機関があるが、病院サイドには承認機関がなくバランスに欠ける(病院側にリスクが大きい)、あるいは、当該通知が民法改正前のものであるため、自己契約以外の利益相反取引がある可能性が大いにあり、それらの契約自体を未然に防ぎたい意図なのか、いまいち趣旨がわかりません。
実際は個人開設の病院であっても、節税目的などでMS法人を持っている場合もあろうかと思いますが、現在このあたりはどのように取り扱われているかよくわかっていません。
とにもかくにも、分かるようで分かりにくい通知でありますが、この通知の細かい部分の判断は各自治体に任せる、というのが厚労省の考えのようです。
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